「やあやあ」 彼は、初めて会ったときもこんな風に、おどけて話しかけてきた。 「達さん、こんにちは」 「こんにちはー」 彼の笑顔は、綺麗だけど、どこか胡散臭い。 「何読んでるのー?」 「この前でた、真樹さんの新刊を」 「ふーん、おもしろい?」 「まあ、でも、読み始めたばかりなのでなんとも・・・」 「そっかあ」 そう言って、私の前に座る達さん。 瞳は笑っているようで、曇っていた。 読んでいた本を閉じて、一呼吸。 「・・・アスミちゃん、怒ってたね」 「そうでしたね」 「あー、えー、ごめんね?」 そうは言いながらも、彼は私と目を合わせない。 笑った顔は綺麗だけれど、それと同じくらい、冷たい。 「・・・・・・・別に、アスミさんは私のものだとか、そういう関係だとか、そういうのではないです。」 彼の謝罪は、所詮上辺だけのものだ。 でも、それは当然だ。 きっと私が達さんの立場だったら、心からの謝罪なんて、とてもじゃないができやしない。 少し視線を彷徨わせて、そして、窓の外の曇り空を見て、彼は笑った。 「そういうつもりで、言ったわけじゃないんだけどな。」 「・・・私も、気にしてないです。 家を追い出されることもなかったし。」 今までで一番怒鳴られたけれど、と心の中で呟く。 「ふふ、アスミちゃんすごかったものね・・」 今度は暖かく笑った。 彼はずっと笑顔のままで感情を表現するのだろうか、なんてとりとめなく思う。 生温い風が、頬をくすぐった。 「・・アスミちゃんは誰のものでもないとしても、君がアスミちゃんの所有物であるのは、確かじゃない?」 折り畳み傘は鞄に入っていたかな。 2008,06,06 |