「由一君」
「おじゃましてる」
「ああ、うん」


私が部屋に帰ると、何故かそこには由一君がいた。
部屋の真ん中に座って、テレビを観ている。


「おもしろいですか?テレビ」
「別に・・」


彼は時々、理由も前触れも無く突然私の部屋に来ることがある。
以前、私が留守にしていたとき、彼はアスミさんの家の前に寒空の中、数時間いたことがある。
その後、彼は当然風邪を引いて、伊織さんたちと看病した。
(もちろん、アスミさんはしていない)
私がいなくても平気なよう、彼に合鍵を渡したのはその後だ。


由一君は何をするでもなく、ただ私の部屋で眠ったり、読書をしたり、たまに私と買いものに行ったりして、ご飯を食べて帰っていく。


「由一君、私、今晩の夕食を買いに行かなければいけないんですけど・・」


そう言えば、彼は黙って立ち上がる。
一緒に部屋を出て、母屋の方へ向かう。
アスミさんに今日の晩御飯の注文を訊かなければならない。
由一君は子どものように、私の後を黙ってついて来る。


「アスミさん、今日の晩ご飯何にします?」
「そうねえ・・鍋って食べてみたいの。肉はたくさんね」
「鍋、ですか」
「どうかした?」
「由一君は、今日食べていきますか?」
「できれば・・」
「アスミさん」
「別に構わないわ」
「・・・・・・・・・」
「どうかした?」
「珍しいなあと思って・・」
「失礼ね」
「すみません・・アスミさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」


本当に珍しい、アスミさんが私以外の人とご飯を食べるなんて。
ただ単に、私が知らないだけで、アスミさんは他の人ともご飯を食べているのかもしれないが、とりあえずこの家では滅多に他人と食事を共にするアスミさんは見れない。


「じゃあ、行ってきます」


***


「・・寒いですね」
「あぁ・・」
「由一君、重くないですか?それ」


由一君は鍋の材料やらトマトジュースやらがたくさん入ったビニール袋を3個ほど持って歩いている。
彼は紳士的だと、私は思う。
カートはずっと押していてくれるし、会計を済ませて袋に買ったものを詰めれば、何も言わずに3つ、持ってくれる。


「何だか悪いですね」
「鍋、ご馳走になるから、別にいいよ」
「そうですか?」


「・・・・・・・由一君、」


隣りを歩く彼の顔を見上げたら、由一君は心なしか悲しそうな表情をしていた。
彼は、立ち止まって空を仰いだ。
はいた息が白くなって昇っていく。
私も立ち止まった。


「エリが」
「・・・誰ですか・・・・?」
「カノジョ」
「あぁ・・」

「うっとおしい」
「・・・はあ・・」


多分、きれいな人なんだろう。
とおるさんが「由一くんの恋人は毎回美人なんだよ」と言っていた。


「由一君、贅沢だと思いますよ・・・」
「そう、かも」
「そうですよ」
「でも、やっぱりうっとおしい」


彼がこう言うことを言うのは初めてではなく、1,2ヶ月に1回くらいの割合で起こる。
殆どの場合、由一君が何らかの理由で物凄く美人なカノジョさんに別れを切り出し、まあ、殆どの場合由一君は突然そういうことを言うので、カノジョさん的には納得がいかず、カノジョさんは「どうして」とか「なんで」とか言うのである。
自然な流れといえば、自然なのだと思うけど、由一君は自分のことで「何故」と理由を訊かれるのを嫌がる。





由一君と今の恋人のエリさんとやらはもうしばらくすると別れるのだろう。 そして、由一君はまたもう少しすると知らない美人サンに告白される。
彼はやっぱり、それを拒んだりしないのだろう。



2007,12,03