うるさいと、泣き喚く彼女に、俺はどうすることもできなかった。
泉には、できなかったんじゃなくて、しなかったんだろうと罵られた。
言い訳できるほど、俺は賢くもなく、また、強くもなかった。


「・・・俺は、どうしたらよかったんだろう」


彼女があの日『飛んだ』場所で、呟いた。
別に、俺に笑いかけてほしいとも、俺のことを愛してほしいとも、思ったことはない。
ただ、俺は彼女を愛していた。
それだけは、確かに覚えている。


『雨宮・・・』
『うるっさい、うるさいうるさいうるさいうるさい・・・』


彼女の瞳は憎悪の炎で燃えていた。そして、悲しみで濡れてもいた。
壊れかけている彼女に、俺は恐怖を覚えた。
彼女は敏感にそれを察し、そして、俺の目の前で飛んでいってしまった。


今、俺は彼女を追いかける。
彼女のように、綺麗に飛べはしないだろうけど。
それでも、彼女のいない世界は、俺に無関心だ。


彼女を追いかけたいなんて言い訳で、俺はただ単に寂しいだけなのかもしれない。
それでも、君は僕を迎えてくれるだろうか。


「おやすみ、」


春はまだ遠い。








05 春まで眠れ


20080508