・・・人間は、心底驚いたり、恐怖したりすると、声もでないらしい。
そんな状況を、今、身をもって体感している真っ最中。
一体私がなにをしたっていうんだ。いじめか。そうか、新手のいじめか!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
と、混乱しつつ、開き直ってみたところで、結局変わったものは私の心持ち一つだった。
どうしようもないので、とりあえず数分前よりは冷静になった頭で状況を整理することにした。
整理する、と言っても、わかったことは少ない。
まず、私は、ふかふかの天蓋つきのベッドに寝かされている。
所謂お姫様ベッドというシロモノだ。
おそらく、一度気を失ったんだと思う。
突然辺りの様子が変わったと思ったら、一瞬遅れて、眩暈がした。
それはもう、世界がぐわんぐわん回っていて、天変地異かと思ったほどに。
・・・実際、天変地異なんて体験したこともないけど、まあ、とにかくそんなかんじですごかった。
そして、気づいたら眩暈は治まっていて、この非常に寝心地のよいベッドで寝かされていた、というわけだ。
なんとなく、寝かせたのはあの顔はいいけど、キモチワルイ人かと思った。
それ以外心当たりもないし。
あ、あともう一つ、なぜか、身動きがとれない。
顔も動かせなければ、指先ひとつ、ピクリともしない。
でも、麻痺してるような、そんな感覚でもない。
上からかけられている、羽毛布団の肌触りの良さは感じる。
『あーまいったなあ・・・』
あ、れ、声もでない。
・・・・・・これって非常にまずいんじゃないだろうか。
あーそもそもここはどこなんだろう。
折角落ち着きを取り戻そうとしていた脳内で、また嫌な影が踊りはじめた。
やっぱり私の嫌な予想通り誘拐とかされちゃったんだろうか。
でも、別に私、特別かわいくもないし、スタイルもまあ、平々凡々、むしろ貧相だ。(自分で言ってて悲しいけど、事実)
かといって、多額の身代金を期待できるほど裕福な家でもない。
なにがしたかったんだろう、あのイケメン変質者は・・・。
―ぐわんっっ―
「どぅあぁっ!?」
そんなことを考えていたら、誰かにものすごい力で腕を引っ張り上げられた。
その勢いで、そのまま私は上半身まで起こしていた。
驚きと、引っ張られた腕の痛みに、声にならない声を上げた。
私を引っ張り上げた張本人は、まだ私の腕を掴んだまま、ベッドの脇に立っていた。
日本ではそうそうお目にかかることのない、綺麗な赤毛。
イケメン変質者とは違った意味で、かっこいい人だなあ、と思った
しかし、妙に不機嫌そうだ。どちらかといえば私のほうが不機嫌でもおかしくないだろうに!
「・・・お前が、次のルーティ?」
「・・・・は?」
聞きなれない単語に、思わず聞き返してしまった。
なんて言った、彼?何、るうてぃ?
カレールー的な何かと、お茶みたいな創作料理か何か?
あれ、でも私が創作料理っておかしいだろう!
彼の方も、私の返答に沈黙している。
心なしか彼の眉間にある皺が深くなって、私の腕を掴む力も強くなったような気がする。
・・・気のせいであってほしい。
「あ、あの、ここはどこでしょう・・・?」
「・・・天宮が呼んでいる。ついてこい。」
天宮・・・・・・・・・・あ、やっぱり、あの変質者のお仲間なんだ・・・。
あーでも、顔はこの人のほうが好みかなー、なん、て。
私は一体どうなるんだ。
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2008'05'10up