1>>始


「はじめまして、お迎えにあがりました」
「・・・・・・・は?」





目の前でニッコリと微笑んだ青年。
はじめまして、はわかるが、そのあとの言葉がつっかかった。
突然「お迎えにあがりました」?
何の話だ。





「えっと・・人違いか何かでは・・・」
「いいえ、間違いございません!あなたです」
「何がですか・・・・?」





妙に嬉々とした目の前の青年に少し危機感を覚える。
この人頭は大丈夫なんだろうか。
まあ、顔は整ってる、というか美形だ。





「私、天宮と申します。本日は貴女をお迎えにあがりました」
「え、だから・・なんでですか・・」





今すぐにドアを閉めて鍵をかけてやろうかと思ったが、いつの間にか天宮と名乗った美男子は玄関に足を差し込んでドアが閉められないようにしていた。
新手の宗教勧誘か何かか。
それならば早く帰ってもらうにこしたことはない。





「宗教とかは、うちやりませんから」
「とんでもございません。私は、ある方の命により、貴女をその方の下へお連れするために来たのです」





心なしか彼もいらだっているような気がした。
何回も同じことを説明させるな、という心境が彼のかもし出す雰囲気から心なしか伝わってくる。
だが、彼の言ってることを聞いて、私はますます彼を怪しんだ。
勧誘などではなく、もしや誘拐か。
それこそ厄介だ。





「それでは、行きましょう」
「えっ」





断りの言葉を考えていたら、突然彼は私の手を取った。
そして、そのまま家を出て私を半ば引きずるような形で歩き始める。
流石にこれは命の危険を感じた。
とりあえず全力でその場に留まろうとすると、彼は歩みを止めて振り返った。





「どうかなされましたか?」
「あのっ離して下さい!!」
「手を離しては、貴女をお連れできません」





彼は困ったような顔をする。
私だって困る。





「私は行きません」
「それは困ります!」
「私だって困ります!第一、全く意味がわかりません」
「ですから、先ほども言ったとおり私は貴女をあの方の下へ、」





またさっきと同じことを言おうとする天宮に、私ははっきりとした怒りを覚えた。





「あの方って誰ですか!?」
「そんな、私の口からは言えません!」
「はあっ!!?」





わけがわからない上に埒も明かない。
もう叫ぶなり何なりして、助けを呼ぼう。
声をあげようと息を吸ったら、突然まわりの空気が冷たくなった。






驚いて辺りを見渡すと、そこは霧に包まれたどこか、だった。








→2





2008'01'12up